笑ゥせえるすまんにも御用心


「電話にでたらこうなった」(画像をクリック)
 多田文明・著 ミリオン出版・刊



夕方のニュースを見ていると、よく「悪徳商法の手口を暴く!」という特集がやっておりますね。
訪問商売、キャッチセールス、宗教勧誘、振込み詐欺、架空請求などさまさまな悪徳商法が蠢いておる現代なのですが、
「ああいう悪徳商法は、引っかかるほうも引っかかるほうだ」
「気が弱い人間であることがいけないんだ!俺は絶対にひっかからないね!」
という批判もよく聞くものです。
しかし、その批判ちょっと待て。俺は引っかからないだの弱い人間が悪いだの言う人間は一体どこまでキャッチセールスのことをわかっているのか。奴らの巧妙な手口を最初からお見通しな人間などいるものか。自分は強い人間、賢い人間などと自負している人間ほど、ふとした瞬間を掬われてしまうもの。街角で声をかけてくる人間を無視するのはたやすいことだけれど、悪徳商法業者だって手を変え品を変えて罠を張って待っているのである。敵はバカではない。それどころか悪賢い連中だ。
あと引っかかった人間がバカだのどうのというのは、引っかかってしまった本人が一番感じることなのでその上から他人が言うべきではない。批判するのは簡単なことだが、じゃあてめえはその状況下に置かれたら断ることができたというのか。ある種脅迫のような勧誘をかわすことができるとでもいうのか。百戦錬磨の彼らがどんだけ手ごわいか知ってるのか。


なんでこんなに熱弁をするのかというと、
実はわたくし、キャッチセールスに引っかかったことがあるのです。
こんなところでひっそりとカミングアウト。今まで人に言ったことなかったなあ、あまりにも忘れたくて。
あれは18だか19だったか(人間って不思議なものですね、忘れたいと思うと本当に忘れていくもんだ)、新宿の路上で図書券のもらえる美容アンケートというものに声をかけられてのこのこと着いていったところ
なぜか体重と身長、そして肌チェックを施され、その上で
「ダイエットの特効薬があるのです!」
「これを飲んで、うちの基礎化粧品一式を使うと痩せるわ肌はキレイになるわで一石二鳥!」
というものを強力に薦められたのだった。いや、薦められたんではなく、あれは「さあ買え!今買え!」と迫られたんだった。
この勧誘は本当に凄まじかった。口げんか甲子園かと思いましたよ。すごいんだ、肌がキレイでやせていなきゃ人間じゃない、アナタは今、人間になるチャンスを掴みかけているのです!といった調子。ここで迷っていたらアナタは一生敗者!というようなことを平気で言う。肌や体重の話が運だのチャンスだのに変わり、いつの間にか人間性や人格までよくなるって話になってたりするから。それを繰り返し繰り返し何度も言う。
当時はまだティーネイジャー、しかも処女であったわたくしは自力で食事制限、運動などのダイエットは全然せずに「楽してやせてぇ」「ヤセ薬欲しい」と思っておりました。
そんなものはないっての。
しかし、悪徳業者が入り込んでくるのはそういう心だ。最初から値段が気になってしょうがなかったので「一体いくらなんですか」と聞いたら、薬1年分で20万(キャンペーン中だとかなんとか言ってた)。
たけー!なんじゃそらー!
「いやあ、高いんで」と渋っていたらすかさずローン用紙を出されたが、当時はクレジットカードを持っていなかったのでローンは組めず。それでも「カードがなくても大丈夫です」とうるさかったし、やせ薬は魅力的ではあったので、勢いで
「じゃあ現金で買います」
と言ってしまったのだった。(現金お買い上げだと一割引で18万だった。今思えばありがたくもなんともない)
何考えてたんだその時の自分。貯金下ろせばなんとかなるなどと思っておりました。


で、家に持ち帰ったところで親が見つけて即クーリングオフ
金は結局払ったんだっけか?いずれにせよ苦い思い出だ。
当時は学生だったので、職にもついていなかったので18万程度を買わされかけたが、このは・じ・め・てのキャッチが就職している今だったら、もっと高いものを買わされそうになっていたのかもしれない。ああ怖い怖い。


この経験以降、「街角声をかけられるのは本当に怖いことだ」と知り、キャッチっぽい人がいたらあからさまに避けるなど防御してきたのだが、道を聞いてくるふりをして聞いてくるのとか(わざわざ地図の前に立っていたりするんだよあざといことに)いましたよ。
路上で美容に関する匿名アンケートをきかせてくれ、と言ってくるのがあって、あからさまにキャッチだとわかったのだがアンケートを受けたこともある。その時の質問項目に
「読んでいる雑誌 1、Cancam 2、JJ 3、NONNO 4、その他(       )」
というのがあったのだが、嫌がらせのようにその他のところに「週刊ゴング」と書いたなー。一番興味があることは「リングス」、好きな男性有名人「前田日明」など。このアンケートを実施していた兄ちゃんが格闘技ファンで「おまえおもしろいなあ」と言われてそのまま「あ、電話かかってきたからサヨウナラ」と去ったんだった。
あとなんでか忘れたが最初のキャッチのような美容系キャッチに事務所まで連れてかれたな。「もうホント俺のノルマかかってるんで!5分で済むから!」と言われたんだっけか。
その時は、肌チェックがあった時点で「ああ、一番最初と一緒だな!」と気づいたので何に対しても「無理っす」「5分で終わるって聞いてたのに長いんでもういいですか?」「ヒマないんですよ」と言い続けて無傷で事務所を出たんだった。



人間は失敗しないと学ばないものだ。私は今ならば「キャッチ引っかからない」という自信があるからな。



とはいっても、「悪徳商法に引っかからないようになるには、一回引っかかればいい」というわけにはいかない。
じゃあどうしたらいいか、というと今回取り上げる多田文明氏の著作「ついていったらこうなった」「電話にでたらこうなった」を読め、ということに尽きる。
ついていったらこうなった」は筆者が実際に街角のキャッチセールスにわざと引っかかり、相手の事務所に潜入して相手の正体を見破ったり、必死で戦って無傷で生還するという話。「手相見せてもらってもいいですか?」と声をかけられた経験がある人は結構いると思うが、もちろんそれも取り上げられております。「キャッチセールスに引っかからない為の本」であると同時に「あの人たちは一体何者なのか」という疑問も解消される、一粒で二度おいしい本。某有名宗教団体はやっぱり悪いところなんだなあ、と納得することでしょう。
街角のキャッチだけでなく、先物取引、結婚相手あっせん所、さらにはUFO研究会なんかにも潜入しているので飽きることはない。それどころか今までこれは悪徳商法なのかそうじゃないのかよくわからなかったものの行方までわかります。いろんな意味で目からウロコ本。


ついていったらこうなった」の続編であり、年末に発売されたばかりなのが「電話にでたらこうなった」。
キャッチ以上に最近頻繁なのが携帯電話にかかってくるわけのわからない電話と迷惑メールなわけですが、そういうものにもわざと引っかかり潜入する筆者。これを読んでいると筆者の電話は常に非通知の着信ばかりで、メールボックスは迷惑メールで埋め尽くされているんではないかと思ってしまうよ。
架空請求はもちろんのこと、デート商法、代理店商法など今回もさまざまな悪徳商法に潜入していますが、一番興味深かったのは
前作で正体を暴いた某宗教団体から裁判を起こされたというくだり。本当に体を張って作られている本なのである。
悪徳商法なんて引っかからないね!俺強いから」などと言っている人はそのまま根拠のない自信を振り回して一度バカを見て欲しいものだが、いつ何があるかわからないなあ、という堅実な方はぜひご一読を。
さおだけ屋よりも悪徳商法はなぜ潰れないのか、のほうが問題なのである。



ちなみに、夕方の悪徳商法特集で必ず出てくる
悪徳商法業者の匿名インタビュー(妙にくぐもった低い声に音声が変えてあるやつ)」
中川家礼二がモノマネしているんだけど、あれが好きでたまらん。最近見ないけど。



追記
架空請求に関しては、すでに有名な「むてきんぐ」のページがおもしろいですがね。
あれは潜入じゃなくて業者と戦っているのだけれど。ページに行くと戦いの様子が聞けるのが素晴らしい。サカエダとの戦いは必聴。